
小説を読み始めるきっかけとしては珍しい事だと思うのだけど、僕がこの『美丘』を
手に取ったきっかけは、その装丁だった。
好きな写真家の一人である中川正子さんが表紙の写真を撮っていて、氏のブログで
紹介されていたから。
こういう類いの写真を使うと結構品のない印象になりがちなんだけど、『美丘』の
この写真はそんな印象など全く感じさせず、涼しい風が吹き抜けるようなさらっとした
印象を与えてくれる。
色の柔らかさといい、さすがだなぁと思った。
表紙に惹かれて手に取ったんだけど、中身の物語も、読んで本当によかった。
久しぶりに心をぐらぐらと揺さぶられて、心を締め付けられて。
読み始めたら止まらなくなった小説なんていつぶりだろうか。
アマゾンのレビューなんかだと、『世界の中心で愛を叫ぶ』の2番煎じ的な事を
書いている人も居るけど、あれとは似ても似つかないと、個人的には思う。
まぁ、セカチューの物語は作り物クサすぎて、読まなければ良かったと思ったくらい
だったから余計かな。
恋人が不治の病に冒されるというありきたりな内容と言えばそうなんだけど、
それでも、そこに存在する主人公の太一と恋人の美丘の心と体の通わせ方には
生の人間らしさや、愛する事の愛おしさ、楽しさ、悲しさ、すばらしさがはっきりと
描かれていて、それらが紙の上の一文字一文字から、僕の心にすぅっと伝わってきた。
涙が出る直前って、決まって先にフゥッと短い息が漏れちゃうんだけど、あれは多分
見えない力が胸を締め付けるから、行き場の無くなった空気が出てくるんだろうな。
久しぶりに読んだ小説。
悲しい物語だけど、生きる希望も与えてくれる、不思議な物語。
悲しい物語だけど、久しぶりに恋がしたくなる、不思議な物語。
美丘、かわいかったです。